4.海洋汚染とウミガメ
ウミガメたちを待ち受けている受難は他にもあります。日本近海でも、漁師の網に掛かって命を落としてしまうことも少なくありません。
ウミガメは肺呼吸をする爬虫類なので、網に捉えられて長時間海の中から出られなくなってしまうと、呼吸ができずに溺れて死んでしまいます。
アオウミガメは最長5時間も息継ぎをしなくて海中にいられるともいわれていますが、筆者が沖縄でダイビング中に出会ったカメのほとんどは、時々海から顔を出して息を吸っていました。
個体差もあると思いますが、頻繁に息継ぎをする必要があるようです。
船のスクリューに巻き込まれ、甲羅や手足をもぎ取られたり、深手を追ったりするウミガメも多く見受けられるようです。
それに関連した日本の沿岸に流れ着くカメの漂流死体は、多い時には年間700匹にもなるといわれています。
傷を負ってしまうと水中では出血が止まらず、匂いを嗅ぎつけたサメなどにも狙われやすくなり、結局は命を落とすことになります。
種類によって違う食べもの
日本近郊や世界に生息するウミガメについて色々とご紹介してきましたが、それぞれの種類で異なる餌を食べることで同じ海域に暮らしながらうまく棲み分けをし、長い間生き続けてきました。
例えば、沖縄での体験ダイビングでも会うことのできるアオウミガメは、沿岸に暮らして主に海藻類を食べています。干潮時には沖の方へ行って、海の底などで身体を休めたりクリーニングステーションで身体をキレイにしてもらったりして過ごしています。
そして満潮になると浜辺や岸に近い所まで戻ってきて、海藻を食べて暮らしています。慶良間諸島にある渡嘉敷島のとかしくビーチでは、満潮時になるとビーチ付近まで戻ってくるので、シュノーケリングでもその姿を見ることができますよ。
また、さらに数が少ないと言われてはいるものの沖縄の海で出会うことのできるタイマイの主食は海綿です。
海綿動物ともいい、スポンジボブのアニメで一躍有名になった無脊椎動物のことです。
海綿は乾くとスポンジ状になるためヨーロッパでは身体を洗うスポンジとしてスーパーでも普通に売られています。
海綿には毒性があるので、タイマイをはじめとしたウミガメ以外に主食にしている動物は見られません。
アカウミガメやオサガメなど、外洋を主に旅する種類は雑食なので海綿や海藻も食べますが、主には貝や甲殻類、魚やクラゲなどを食べています。
特に身体の大きなオサガメの主食はクラゲで、その大きな身体を維持するために1日に約200キロ食べるそうで、そのため絶えず餌を求めて外洋を移動しています。
オサガメの移動距離は長く、1年で地球の半周くらいの距離を泳いで回っていることが確認されています。
プラスチックゴミ
そのような生活を送っているウミガメたちにとって、人間が捨てたり風で飛ばされたりするプラスチックゴミは大きな驚異となっています。
以前、小笠原のカメセンターでアオウミガメの胃袋の中から発見された大量のプラスチックゴミが展示されていました。そこでは、アザラシやクジラなどの多くの海洋生物もクラスチックゴミによって死に至っていた事が紹介されています。
プラスチックゴミが特に危険といえる点は、動物の胃の中で消化されないで留まってしまうため、生き物が常に満腹感を感じてしまい、結果、食料を十分に得られずに餓死してしまうことです。
また、見えにくい釣り糸を飲み込んでしまい、一緒に飲み込んだ釣り針が胃壁を傷つけたり、プラスチックゴミが腸に運ばれ腸閉塞を起こして死んでしまうケースも見られます。
太平洋ゴミベルト
これは、人間の住む陸地付近の海に捨てられたプラスチックゴミが、風によって外洋に運ばれたあと、黒潮などの海流に乗って特定の場所にベルト状に長く固まるように流れ着いていくことからつけられた名称です。
近年NASAが探査機能を付けたブイ(浮き)を海洋へ流し追跡したところ、ゴミは主に地球上の5つの海域に集まることが分かりました。
北大西洋・南大西洋・北太平洋・南太平洋そしてインド洋からオーストラリア西海岸にかけての5つの海域です。
外洋性のウミガメのうち日本近郊で産まれたアカウミガメの子供は、外洋に出た後は黒潮続流に乗って太平洋を渡り、北アメリカ大陸に辿り着きます。
その後、温暖なカルフォルニア沿岸で大きくなり、数10年経って産卵のために再び黒潮に乗り南太平洋を泳いで自力で日本の沿岸に戻ってきます。
オサガメは、1年の移動距離が2万キロ近くになるほど地球上のあちこちの海を渡り歩きながら暮らしています。餌を求めて移動するのでその距離は2年間で地球を約1週するほど。かなり長距離の旅をしています。
以上を鑑みると、外洋生活を送る彼らの生息区域は丁度プラスチックゴミの流れ着くゴミベルトの位置と同じ場所ということになります。これでは、プラスチックゴミを食べてしまうリスクが増える一方です。
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