2.沖縄とマングローブ
現在の沖縄において観光資源としての役割が高いマングローブは、高波から守る防波堤の役割も果たしてくれています。
沖縄よりもっと南の東南アジアで林の近隣に暮らす人たちにとっては、昔から身近にあった大切な生活資源のひとつで、家を建てたり船を造ったりするための木材として枝が使われ、薪や燃料にもなっています。種子や樹皮は止血や湿布薬として使用され、食料にもなります。
サンゴ礁との関係
沖縄地方独特の生態系としてのマングローブ林は、サンゴ礁とも密接な関わりがあります。
沖縄は島なので、本土に比べると河川が短く、川の水が海に届くまでそう時間はかかりません。沖縄の土壌は粘土質を多く含む赤土のため、台風や度重なる大雨で簡単に海に流されていってしまいます。
赤土の堆積は土地開発や米軍基地からの流出量が多いといわれています。赤土が積もり光合成を阻害し、結果的に白化を招く原因のひとつとなります。
河口付近に密生するマングローブ林の根は、海に流れ出る赤土をせき止めて、沖縄の美しいサンゴ礁を守る役割をしているといえます。
サンゴ礁で産まれた小さな生き物たちの中には、マングローブの複雑な形状の根を隠れ家にして生きているものもいます。
泥土の干潟には有機物が多く溜まる性質があります。この場合の有機物とは、光合成によってつくりだした炭素を含む物質、すなわち糖やデンプンなどの成分で、それを餌にする微生物が多く発生します。
潮が満ちると、そのようなプランクトンやバクテリアを餌にする小魚達が海からやってきます。このように潮の満ち引きによって栄養素が干潟から海に戻り、沖縄の海をより豊かにしています。
宮城県気仙沼市で牡蠣の養殖をしている畠山重篤さんという方が提唱している森は海の恋運動をご紹介します。
豊かな森があってこそ、豊富な有機物が川の水に溶け込んで海に注がれ、魚介類の栄養になり、結果的に海を豊かにしてくれます。
そう考えると沖縄のマングローブも、サンゴ礁と恋人関係にあるといえそうです。
子孫の残しかた
マングローブを形成する植物は、一風変わった方法で子孫を残します。
オヒルギを例にとってみます。夏のはじめの頃、花が咲くのはどの植物もだいたい一緒。種によって花の形状や大きさ、色などには違いがありますが、オヒルギは赤っぽいガクのような筒状の花を咲かせます。
花の中心からちょうどマメ科の植物のように実(種)が育ってきます。そしてどんどん長くなってインゲンマメのような円錐形の種になります。
潮が満ちたり引いたりする不安定な環境で種が根を張って育っていくのはとても困難。そのため、オヒルギは木に付いたままの状態で実(種)が育ち、ある程度大きく育つとすっぽりと抜けて地面に落ちるという性質があります。
このような種は胎生種子と呼ばれ、種子は先がわずかに尖ったような形をしています。地面に落ちた種は、潮が満ちてくると水に浮かんで流されていきますが、その様子から沖縄ではマングローブを「漂木(ひるぎ)」と呼んできました。
そして潮が引くとまたゆらゆらと少し戻ったり、また潮に乗って流されたりを繰り返したある日、ひょんな事で尖った先が地面に引っかかり、突き刺さったような状態になって成長をするのです。
このような性質から自分の抜け落ちた近くの土地に根付き、帯状に分布が広がると考えられています。
地球温暖化との関係
マングローブは、他の樹木と同じように葉から光合成をしますが、酸素供給量の割合は他の一般的な樹木に比べて何倍も多いという特徴があります。
その理由は、成長の早さにあります。いったん根付くと1年で約1メートルほど幹や枝を伸ばして成長することができます。早く成長するということはその分栄養が必要ということにもなり、たくさんの二酸化炭素を吸収し、その分多くの酸素を供給できているということになります。
地球温暖化が叫ばれるようになって随分になります。人間による伐採が原因で森林が減り、人々がより便利な生活を求めた結果、大気中に二酸化炭素が増えて地球温暖化が促進したと考えられるようになりました。
マングローブは、温暖な気候の土地で1年を通して繁殖が可能でなおかつ成長が早いため、地球温暖化に歯止めをかけられる救世主になり得る可能性があります。
全ての責任や役割を負わせる事は不可能ですが、生息地域は限られているとはいえマングローブの伐採を減らし豊かな原生林を再構築することができれば、少しずつでも地球の寿命を永らえ、私達の生きる未来を変えられるかもしれません。
住んでいる生物
マングローブ林は特殊な生態環境が完成されています。干潟には一体どんな生き物が暮らしているのでしょうか。
光合成によって作られた炭素は、蓄えられて成長するための栄養となります。
干潟は泥地のため小さな生き物たちの餌となる有機物が溜まりやすい性質を持ちます。潮が満ちてくると、プランクトンや小さな生き物を狙って、海の方から小魚たちが集まります。
複雑な形に密集したマングローブの根っこは、沢山の隠れ家を小魚たちに与えてくれるので、捕食者となる大きな魚から身を隠すのにもぴったりです。
潮が引いたあとは、干潟で暮ら小さな生き物たちが泥の中から出てきます。干潟で最も有名な生き物はシオマネキやミナミコメツキガニなどのカニ類。
「はさみをふりふり、シオマネキ。あなからそろりとはいだした」という歌「シオマネキのサンバ」は教科書にも載っているなつかしい歌です。
真っ赤な体のベニシオマネキやきれいな青色をした種類など、沖縄周辺には9種類が生息しています。
食料は泥の中の有機物。干潟ではハサミで泥をつまみ口に運ぶ様子を見ることができます。また、落ち葉を食べるカニやキバウミニナなどの大きめの巻き貝も生息しています。
カニや貝がいるとなれば、目当てにサギの仲間など大型の鳥たちもたくさん集まってきます。
そのほか、ミナミトビハゼなど干潟で暮らす魚もいます。マングローブ林ではそこでしか生息していない生き物たちの独特の生態系が営まれています。
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