3.危機の原因

日本や世界で数が減り、絶滅危惧種となっている理由はどのようなものでしょうか。

ガラパゴス諸島のゾウガメは、大航海時代から船に積み込める長期保存可能な食料として乱獲が進み、その姿を消したことで有名です。

2015年にサンタ・クルス島で新種が見つかった例や、2019年に103年振りにフェルナンディナ島で絶滅したとされていたフェルナンディナゾウガメ(推定100歳)が発見された世紀の衝撃ニュースも記憶に新しいですが、減少の理由は乱獲によるものでしょうか。

肉が美味しいとか(筆者の記憶ではあっさりした刺し身)べっ甲のアクセサリーやメガネを身につけてみたいといったような欲求への個人差はあるでしょうが、種類の減少にはまず卵の乱獲があげられます。

今の日本ではみられませんが、卵を食料にする国や地域は多くあります。ウミガメはご存知の通り浜辺に卵をまとめて産み付ける習性があり、また、砂辺を歩いた跡はキャタピラのような独特の形状をしていることもあって、卵の在り処が非常にわかりやすいのです。
ただ、卵はそれほど美味しくない、という意見が多いようです。

昔テレビCMで見られたような、自動車が浜辺を走り回るような行為が砂浜に産み付けられた卵を潰してしまうという事もあります。
ウミガメの卵は非常にセンシティブなので、人のいない砂浜を車で乗り回すというような行為は環境のために絶対にやめましょう。

消えた砂浜

帰巣本能によって生まれ故郷の浜に戻ってきて産卵をするというのは、有名な話ですね。
メスは一度の産卵で約100個の卵を生みます。夜になると砂浜へ上がり、自分で砂が掘れる固くない場所を探して穴を掘り産み付けます。

卵は水に浸かったままだと死んでしまうので、メスは満潮時でも水に沈まない所を探して産み付けなければいけません。そのように、1度の産卵シーズンの間に1匹が平均して3回ほど卵を産みに上陸します。

そして、同じメスが再び産卵に訪れるのは数年後のことです。そう、同じカメが毎年卵を産みに来るわけではありません。

現在の日本では、産卵に訪れることのできる静かな砂浜が減っています。
日本は自然災害の多い国です。特に東日本大震災の後、海岸沿いに防波堤が増えました。
人間が海沿いに築き上げた防波堤の役割を果たすテトラポットや波消しブロックが、産卵地を奪ってしまっています。

想像してください

日本のある浜辺でウミガメが産まれました。やっとの事で小さい身体を動かして砂から這い出すと、一生懸命に歩いて波打ち際まで辿り着きました。
海に着くまでにカモメやカニなどの他の生き物に襲われないように、暗い夜の間を選んでようやく水際まで歩きました。
やっと水の中に入り、陸上よりも楽に泳ぐことができます。今夜のうちに浅い岸辺から離れて、なるべく遠くまで行きたいと頑張って泳ぎます。
外洋に出ても、周りは大きな魚や自分を狙うサメなどの肉食の魚ばかり。仲間はどんどん食べられてやがて一人ぼっちになってしまいます。
それでも海藻の影に隠れて漂いながら、餌を食べてなんとか自力で生活できるまで大きくなりました。ウミガメの世界では、産まれた子どもの内、無事に大人になれるのは1,000匹中たった1匹と言われています。
世界中の海を泳ぎながら生活していましたが、そうこうしているうちに25年が経ち、産卵のために生まれ故郷の浜辺を辿って戻ってきます。しかし、そこに思い描いていた砂浜の姿は既にありません。これではまるで逆浦島太郎状態です。

砂浜がなければ、産卵をすることができません。しかも砂浜が無い以外にも深刻な問題があります。それは前述したテトラポットや波消しブロックです。
海の中では飛ぶように優雅に泳ぐことができますが、脚は歩行に適していないので、卵を産みに上陸したあと浜をさまよっているうちに波消しブロックに乗り上げて動けなくなってしまう事が多々あります。また、砂から産まれた子どもも、ブロックに阻まれて海までた辿り着けない事もあります。

方向感覚を狂わす外灯

産卵をするウミガメの親は、白色電灯などの白っぽい明かりの色を嫌う性質があります。産まれた海岸に戻ってきても、そのような明るい環境だと上陸をやめ、別の産卵地を探しに出ることになります。

砂に産み付けられた卵は、砂の温度によって約45日〜60日ほどで孵化します。子どもは、夜になって砂の温度が低くなったのを感知して一斉に孵化します。夜間のほうが外敵に襲われにくいからです。

同じ時に産み付けられた穴の子どもたちはほぼ同時期に孵化し、お互いの頭や身体を蹴りながら砂の上に這い出てきます。そして僅かな灯りや紫外線を感知し、海の方へ向かって一斉に歩き出します。

赤ちゃんは、孵化してから20時間くらいの間までが1番元気です。興奮期(フレンジー)と呼ばれていますが、興奮したように手足を一生懸命に動かして、この1日にも満たない僅かな間になるべく敵に襲われにくい外海まで泳いでいく必要があります。

カラスやカモメ、鳶などの鳥類やカニなどに捕獲されやすい砂浜に近いところから、大型の魚やサメなどの肉食魚類の多い浅海をぬけて、黒潮の流れる沖合100キロ近くの外洋までなんとか辿り着かなければいけません。

ところが、海岸沿いを明るく照らす外灯が海に戻る妨げになっている事例があります。
海と反対側の陸側が明るいことで、子ガメは産まれてから海とは反対方向に向かって歩いていってしまいます。
そうなると当然、敵に襲われやすくなりますし体力も消耗してしまいます。ブロックやゴミに阻まれて結局命を落としてしまうことにもなりかねません。

保護活動を町全体で行っている地域では、子ガメの孵化時期になると、海沿いの外灯を夜の間は消灯したり、反応しない赤色のライトを取り付けたりと、無事に海に泳いでいけるよう工夫して手助けしています。

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